仕事なんかせず悠々自適に暮らしたいと思う一方で、好きな仕事で成功している人を羨ましく感じることはないだろうか。そんな私たちに、ある人は「好きなことを仕事にしよう」と言い、またある人は「仕事を好きになろう」と言う。本書の主張は「仕事を好きになろう」だが、なるほど、と思わせてくれる充分な根拠と、地に足ついた道筋を示している。その道筋に従い今の自分と仕事を見つめ直し、必要な行動をとることで、確実にあなたの理想のキャリアに一歩近づくだろう。
学生や、仕事に希望を抱いているキャリアの駆け出し時期にいる新人にも読んでもらいたい1冊だが、私としては、今の仕事を続けていくべきか悩んでいる人、漠然と自由に憧れがちだが、その思いを経済的に支える仕事がなく行き詰っている人に特におすすめしたい。現在の状況を打開するための明確な指針となるはずだ。
本書には、就職活動時に「好きなことは仕事にできるか?」というテーマを探究した、著者自身の理想の仕事探しのプロセスが記されている。仕事が好きでたまらない人たちと、挫折してしまった人たちの両方を調査しながら、その答えと、私たちにも適用できるルールを見事に見出している。
まず著者は、「”好きな仕事をするにはやりたいことを追い求めよ”は、必ずしも有益なアドバイスではない」と確信する。それどころか、「”好き”を仕事にという幻想は、間違っているだけでなく、危険なのだ。」とまで言い切る。どこかで自分の天職が待っていると希望を抱き、リスクを顧みずそれを追い求め、さまよい、混乱し続ける人を生み出していると。これはまさに自分自身にも経験がある。今自分が仕事をしていて幸せでないのは、自分が悪いのではなく、仕事が自分に合っていないからだと、つい考えてしまうのだ。
では、代わりにどうすればよいのか?という疑問に、著者は「あなたの目指すところが仕事を好きになることなら、まずすべきなのは、希少で価値のあるスキルを上達させて”キャリア資本”を積み上げ、その後に、この資本を素晴らしい仕事のために投資すること」という答えを出している。ここでの「素晴らしい仕事」とは、3つの条件「自由度・創造性・影響力」が満たせる仕事だという。確かに、自由に働けて、自分の創造性を発揮し、世の中に影響を与える仕事をして、充分な報酬を得るということは、誰もが憧れることではないだろうか。そして、そんな仕事を持つ人は、自分の仕事を「好き」だろう。
しかし、キャリア資本がなければ、「素晴らしい仕事」は得られないようだ。「キャリア資本なき自由は続かない」と著者は述べている。厳しいようだが、しっかり受け止め、筆者からの提案を受入れてみる価値がありそうだ。「自分の今の仕事が本当にやりたいことなのかがひとまず置いて、誰もが思わず注目してしまうくらいに、それをうまくやってみてはどうか。その仕事が何であれ、真のパフォーマーがやるようにアプローチしてみるのだ」。
そのためには、日常的に「意図的な練習」をすることが欠かせないと主張する。「意図的な練習」とは、「自分の快適ゾーンから出て、厳しく自分を高めてスキルを獲得するという行為」のことだ。ついつい惰性で仕事をしてしまう私たちに、著者はユーモアたっぷりに警鐘を鳴らしている。「ミュージシャン、アスリート、チェスの名プレーヤーなどは皆、”意図的な練習”を実行しているが、知識労働者はしない。知識労働者の多くは、”意図的な練習”は厄介だと避ける。顕著な例は、デスクワークの労働者が取りつかれたようにメールをチェックする習慣だ。この行動が、精神的にもっときつい仕事からの逃避でなければ何のためだろう?」。日々の仕事に忙殺され、こなしているだけでは、希少で価値のあるスキルを上達させることはできないようだ。
一方で、「”自分にふさわしい仕事”より、”その仕事にふさわしい働き方”をすることの方が重要」、「どんな仕事も重要なキャリアを築く基礎になる」と主張する著者だが、キャリア資産になり得ない、辞めてしまった方がいい仕事があるとも認めており、そのような仕事の3つの条件も示されている。今の仕事を続けるべきか悩んでいる人には、今の仕事がこの条件に当てはまるかどうかよく考えてみるといいだろう。本当に損切りすべきかどうか、決断の助けになるはずだ。
著者のカル・ニューポートは、2012年に発売された本書の執筆時29歳。この時既に、MITのコンピュータ・サイエンスの専門家として世界中を飛び回って活躍していた人物だ。高校生の時には友人とウェブデザイン会社を起業して成功を収めており、大学では常に最優秀の成績を収めていたようである。私からすれば、既に大変に優秀な人材であり、充実な人生を送っているように見えるが、そのような人物が万人と同じく「仕事探し」というテーマについて考え、探求したことが非常に興味深い。現在は、ジョージタウン大学の准教授を務めいる傍ら、これまでに6冊の本を執筆し、その多くが高評価を得ている。
著者の能力の高さにまいってしまい、平凡な自分には適用できないと思ってしまうかもしれないが、そんなことはない。本書の内容は、どの分野で働いている人にも、どのステージにいる人にも適用できる戦略だ。あなたが今どこにいようと、意図的な練習を積めば、能力を高め、突き抜けた存在になれるのだから。
尚、本書は2020年5月時点で、本国アメリカのアマゾンではレビュー1,042件・星4.4と大変良い評価を得ているのに対して、日本のアマゾンではレビューわずかに9件・星3.7とあまり受け入れられていないようだ。だが、間違いなく日本人も、本書のアドバイスを実践することで、自分の能力と自信を高められるだろう。そして、仕事を好きになり、理想のライフスタイルへ軌道修正できることだろう。
コメントを残す